2016.03.16

●あるある探検隊●

高尾か巣鴨かわからない♪ ハイっ!
 

 さて。本日も お立ち寄りありがとうございます。


 タイトルが、わけわかりませんが、一種の心の叫びとでもご理解いただければいいかと思います。本日も前々回からの流れで、卵の話でございます。 

 「卵が割れてたって、早くに食べてしまえばいいんじゃないの?」 Why American people, Why?? もったいないだろー!  というお話の続きです。

 卵の衛生を考えるとき、最も重要なのがサルモネラ菌の汚染です。サルモネラ菌は、鶏の腸内に常在する菌で、人の食中毒の原因菌として有名です。

 人や、たいていの哺乳類では、泌尿・生殖器系の出入り口と肛門は別の場所にあります。しかし、鶏や爬虫類や魚類の場合、便も尿も卵も、いったん、総排泄腔という共有の空間を経て、総排泄孔という一つの孔から出てきます。外見上、鶏の肛門に見える部分が、総排泄孔です。

 私たちがふだん食べている鶏卵は、かならず、この総排泄腔を通過して出てくるので、鶏卵の表面にはサルモネラ菌を含む糞便がへばりつきます。

 卵殻にへばりついたサルモネラ菌は、卵殻の微小な孔を通過して、卵の中に侵入することができます。ただし、卵を奇麗にしようと思って、水道水で洗うと、かえって、菌が殻を通過しやすくなるため、洗うならば、60℃のお湯で洗うことが推奨されています。当然のことながら、卵殻にヒビが入っていると、サルモネラ菌は難なく中身に侵入できます。
 
 サルモネラ菌は、冷蔵保存で、ある程度、増殖スピードを抑えることができますが、増殖を完全に止めることはできないので、冷蔵でも長くは保存できません。ヒビの入った卵は早々にサルモネラ菌が中身を汚染しますので、冷蔵でも保存すべきではありません。流通過程で常温保存されているような場合ではなおのことです。

 で・・・アメリカの食料品店の卵売り場ですが、いま思えば、常温でした。ふつうに通路においてあるカートの上にパックが山積みで、冷蔵はしていません。

 だとすると、割れた卵は、急いで食べれば安全どころか、既にじゅうぶん危険な卵だったと考えてよいのかもしれません。

 いまさら説明するまでもありませんが、日本では、生卵を食べることが前提なので、卵に対する衛生的配慮が世界に類をみないほど厳密です。
 生産者は出荷時に割れ卵を選別除去して、さらに 殺菌 します。
 殺菌方法はいろいろありますが、60度のお湯を使って、卵殻を洗浄する方法に加えて、次亜塩素酸に付け込んで、菌を殺します。中にはお湯の中にオゾンをまぜたり、ブラシ洗浄したりする工場もあります。
 殺菌後は、消費者の手に渡るまで、確実に冷蔵保存で流通していきます。
 
 日本にも まれに、殺菌していない卵が売っていることがありますが、あくまでも稀な例であり、その卵には 殺菌 と表示されていないので、すぐにわかります。ただし、冷蔵保存している上に、鮮度も重視されているので、自宅での処理さえ間違えなければ、安全に食べることができます。

 一方、アメリカでは、そもそも卵を生で食べることを前提としていないので、出荷に際して、見た目を意識した洗浄はするけれども、殺菌という概念はほとんどないようです。国土の広さと人材の確保の難しさから、流通過程での割れ卵の扱いや、温度管理もかなりテキトーなことになるのは避けられないようです。
 まれに殺菌卵という商品もあるようですが、極めて特殊な存在らしく、アメリカで卵といったら、割れてて、サルモネラが元気に生きている卵だと思わないといけない。買う側もそれは織り込み済みなので、卵を買いたければ、他者を思いやらない強い心と、北斗神拳を習得しなければならない。と。

 ここで一つ、腑に落ちたことがあります。
 よく、負けたサッカーの選手に腐った卵を投げつけるヨーロッパや南米のサポーターが紹介されますが、日本人の台所感覚では、腐った卵なんてどこにあるんだよ?って感じですよね。古くなっちゃったかもしれないから用心して捨てようって事はあっても、ガチに腐敗して、割ったら悪臭がただよう卵なんてのは、ほとんど想像できません。強いて言うなら理科の実験でヒヨコを孵そうとして、死ごもりした卵をあきらめきれずに開けてみました・・・なんてときには、かぐわしかった記憶がありますが、食品の卵でそんな経験は皆無です。なので、私はイタリアとかブラジルの人って、わざわざ自宅で何日もかけて卵を腐敗させておいて、負け試合に備えているんだと思っていました。なんて凶暴で意地悪な奴らなんだと。スポーツマンシップは絵空事だなと。

 でも。違ったんですね・・・。外国では腐った卵は日常的だったんですね。なんなら新鮮な卵を投げつけたいのに、腐ったやつしか手元になかったのかもしれない。長年の疑問が解けました。本場のカルボナーラは危険かもしれないという新たなる疑問が浮かんじゃいましたけど。

なので、日本でもたまに、卵が投げつけられる事件が報道されますが、マスコミの皆さんは、表記に注意していただきたい。卵、腐ってませんから。
 「怒ったサポーターが、選手にむかって、卵かけご飯に最適な新鮮な殺菌卵を投げつける一幕も見られました」 みたいな感じで書いていただけると、ニュースの雰囲気も和らぎますので。

 写真は、国分寺農協の売店にあったウコッケイの卵。販売者の住所氏名まで記載された自信作。保存温度、保存期間まで明記されています。素晴らしいです。

 なお、卵の直販所などで、殺菌していない、ちょっとウンコのついた卵を買った場合、仮に冷蔵してあっても、そのまま食べてはいけません。まずは、冷蔵しながら持ち帰ること。冷蔵品を常温におくと結露します。卵が濡れて、サルモネラの卵内部への侵入が助長されます。結露を拭きとるか、冷蔵で持ち帰り、まずは60℃のお湯に5分間つけます。次に、やけどしないように40℃くらいのお湯をかけ流して、スポンジで奇麗に卵を洗浄します。洗い終わったら、表面を完璧に拭き、水分をなくし、そのまま冷蔵庫で保存。数日以内に食べるようにしましょう。

 卵かけご飯のために、延々と書く獣医。動物病院のブログとして、なんだかおかしな方向に向かっている気がしなくもありませんが、おかしな方向性を楽しんでいただければ本望です。

 それに、畜産物の安全を確保する事が獣医本来の存在意義ですからね。犬猫病院のブログとして、方向性はおかしくても、獣医の姿勢としては間違ってないってことで。

 それでは皆様。今日も一日、各人の持ち場にて奮闘いたしましょう。  って もう 夜だ 帰ろう(笑)

  以上。三鷹・吉祥寺のペットドクター いのかしら公園動物病院の石橋でした。